感想

髑髏島の惨劇 (文春文庫)

髑髏島の惨劇 (文春文庫)

読了。

呪われた伝説の島、髑髏島。残虐な連続殺人鬼が街を恐怖で覆う中、推理ゲームの探偵役として島に集められた15人の男女は、邪教を崇拝する殺人鬼が仕掛けた死の罠の餌食と化す・・・。
嵐の孤島、幽霊射手、切り裂きジャック、密室殺人、無数の殺人機械。
ホラーと本格ミステリを融合させたミステリ史上稀な異形な大作。綾辻行人、絶賛!

マイケル・スレイド約10年ぶりの新作。
猟奇殺人から幕を開ける。どう読み進めていってもサイコサスペンスの匂いしか感じさせない前半。
そこに、切り裂きジャックと悪魔教のオカルト薀蓄がストーリーを無視して強引に割り込んでくる中盤。
そして、メインイベントともとれる、嵐の孤島でのスプラッタホラーなみの連続殺人が繰り広げられる後半。
ものすごいボリュームである。このボリュームに本格ミステリを融合させようと言うのだから、頭が下がる。


本格ミステリを融合させようとしているのは、後半から繰り広げられる嵐の孤島で繰り広げられる連続殺人の場である。
「ミステリ・ウィークエンド」なるイベントに参加するのはミステリ作家達。そのなかに本物の警官が一人。
参加する警官は「ミステリ・ウィークエンド」の為にミステリの勉強をはじめる。
そして、参加者の一人とカー談義をはじめるのである。『三つの棺』で語られている密室講義を下敷きに、孤島に建つ館で起こる密室殺人。


サイコサスペンスが一転して、フーダニット、ハウダニットに化けるのである。
内容的にはかなり強引であり、薄っぺらい感じが否めないのだが、カーへのリスペクト感は伝わってくる。
これはこれで、ちゃんと肉付けして独立した話にしても良かったのではないだろうか?
そうなったら、二階堂黎人の『人狼城の恐怖』のようになるのは目に見えているのだが・・・。


スレイドの作品は『ヘッドハンター』『グール』『カットスロート』と過去3作が翻訳されている。
私自身は『グール』しか読んだことがないのだが、『髑髏島の惨劇』では主要キャラクタが過去3作にすべて絡んでいて、トラウマを抱えている。詳細は語られないものの、効果的に挿入されているので過去の事件に興味をもたせるのである。
過去の作品を読んでいなくても、『髑髏島の惨劇』だけでも十分に楽しめるのだが、過去の作品を読んでいれば、キャラクタの厚みが増すのは間違いない。
ただ、残念ながら『グール』以外は絶版である。
殺人の描写が実に生々しいのと、情け容赦なく主要キャラクタの周りにいる人間(家族や恋人)を殺していく「パンクホラー」な作家である。


ホラーと本格ミステリの融合はなったのかはともかく、圧倒されるオカルト感とサイコサスペンス感とホラー感を味わってほしい。