感想

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

この世には不思議なことなど何もないのだよ
古本屋にして陰陽師が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第一弾。
東京・雑司ヶ谷の医院に奇妙な噂が流れる。娘は20箇月も身篭ったままで、その夫は密室から失踪したという。
文士・関口や探偵・榎木津らの推理を超え噂は意外な結末へ。

序盤、100ページに及ぶ薀蓄の披露に疲労を感じもするが、全編を通しての不思議な雰囲気が京極堂の世界に引き込んでいく。
文章の上手さ、ストーリーの組み立て、キャラクターの独自性と読ませる作品である。
圧巻はやはり憑物落しのシーンだろうか。


娘の長期妊娠と夫の密室失踪事件から端を発し、赤ん坊の誘拐事件が絡みついてくる。
意外とあっさりと流されてしまった感じの長期妊娠と密室失踪事件。最後の謎解き部分が久遠寺家の呪われた過去と赤ん坊のエピソードに終始するためなのかもしれないが。
科学的に長期妊娠を説明できるわけではないので、この着地の仕方はありなのかも知れないが、失踪事件の着地は、どうも強引過ぎる感じも受けた。


憑物落しのシーンで京極堂が喪黒福蔵に見え、さらにエヴァンゲリオンの使途レリエルからエヴァ初号機が生まれ出るところを想像してしまった。
憑物落しのシーンのインパクトが強烈過ぎて、それしか残っていないというのが、正直な感想である。


推理小説として読み始めたのだが、ページをめくるにつれ、これはもはや推理小説ではなかった。ホラー、怪談とも違うし、上級のエンターテイメントなのだと思ったしだい。