感想
- 作者: ドミニク・フェルナンデス,田部武光
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1984/07/01
- メディア: 文庫
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ヨーハン・ヨアヒム・ヴィンケルマン(1717−68)。
ドイツの美学者で美術史家。美術史学・考古学の基礎を築き、勃興期にあった古典主義に先駆者として影響を与えた。オーストリアを訪れ、マリア・テレジアから金銀のメダルを贈られたその帰途、1768年6月8日、トリエステでメダルを強奪しようとした凶漢アルカンジェリに刺殺された。
人名辞典に見られる強盗殺人の記述は果たして真実なのか?
異色中の異色ともいえる本作品。わずか99ページ。行間も広く、いささか同人誌で文庫を作ったかのような感覚に陥る。
が、侮ることなかれ。このわずか99ページに凝縮された歴史ミステリ。秀逸である。
ヨーハン・ヨアヒム・ヴィンケルマンという実在した人物で、金貨を目当てに殺されたと歴史書にも書かれているほど。ドイツにとどまらず、ヨーロッパでは名が通った人物であったらしい。
そのヴィンケルマンが殺される直前に名乗っていたのは「シニョール・ジョバンニ」。宿泊していたホテルでもそう呼ばせ、さらには死の間際に警察に答えたのも「シニョール・ジョバンニ」だったのだ。なぜ、そこまでして本名を隠さねばならなかったのか?
この事件の裁判記録、犯人であるアルカンジェリ、ホテルの支配人などの参考人の証言をもとに、「シニョール・ジョバンニ」を名乗らざるを得なかったヴィンケルマンの心理を暴いていくのである。
俗説をそのまま信じているのではなく、研究の結果がこのようなミステリに繋がっていくのは面白いことだ。
ひとつ難点を言えば、ヴィンケルマンという人物が日本になじみが薄いということか
ともあれ、小説と言う形ではないホワイダニットを体験して欲しい。