感想

殺人小説家 (講談社文庫)

殺人小説家 (講談社文庫)

差出人不明の封筒が、小説化ホーギーのもとの届く。なかに入っていたのは、小説の第1章と礼儀正しい添え状だった。書き手の才能に驚いたホーギーは、翌朝、さらに驚くべき事実を知ることになる。
小説に書かれていたとおりの殺人事件が起きたのだ。警察が躍起になるなか、二番目の犠牲者が発見される。

前作「傷心」から4年半を経て、ホーギー&ルルシリーズが帰ってきた。


小説に書かれている殺人が現実となるというパターンは、さほど珍しくない。
そこから、連続殺人からサイコサスペンスに派生していくというのが、王道のパターンでもある。
ハンドラーは、そんなありきたりの手法をとらず、探偵役の主人公を心理的にミスリードしていくのだ。青春のひとときの思い出と、心から解かりあえる友との友情をもとに。
ホーギーのせつなさが痛いほど伝わってくる作品だ。こんなに苦悩するホーギーを知らない。
作中で語られる、ホーギーの青春時代。なにも疑うことなく、まっすぐで破天荒な時代。そこで生まれた友情。
カレッジフットボールリーグでスター選手に上り詰めた男との友情。それは、その男が堕落していったからといって、失われるものではなかった。
ホーギーの妻だったメリリーの親友と結婚したこと。ホーギーがメリリーとの結婚が破綻してしまったこと。暴力によって友の結婚が破綻したこと。
心が折れてしまいそうになるとき、必ず側にいたのに、いつの間にか連絡をとることもなくなり、疎遠になっていった親友。
その親友と再び、見詰め合うことにさせるのは、アンサーマンという小説家志望の殺人鬼である。

アンサーマンが書き綴る殺人小説は、その親友しか知りえない言い回しが使われていた。
ホーギーは直感的にアンサーマンが親友だと察知するが、本当に彼なのか。彼をアンサーマンではない信じているホーギーも存在する。
親友を信じきることができるのか、それとも彼はアンサーマンなのか・・・。
人を信じる難しさとせつなさ。ホーギーをここまで追い詰めてしまう、ホーギーの純粋さ。読んでいて、せつなくなってくる。


そんなせつなさの中にも、「自分を消した男」ですったもんだの挙句、元妻のメリリーとの間に授かったトレーシーもすっかり大きくなり、ヴィックやパムといったおなじみのメンバーも元気である。そんなレギュラーメンバーで驚きのカップルが誕生するのだが・・・。
ただ、残念なのは「女優志願」でホーギーと同じゴーストライターとして登場し、その後メキメキと出世していたカッサンドラがアンサーマンの手にかかって命を落としてしまうのだ。


ミステリの要素としては、最後に軽いどんでん返しが用意されているが、薄味である。
シリーズを何作か読んで、ホーギーとルルをはじめとしたレギュラーキャラクターに親しんだ上で読むことをお薦めしたい。
ハンドラーがキャラクターに込めた親御心を感じるのである。


シリーズ8作目。
今回の事件で受けた、ホーギーの心の傷を癒すまでに時間がかかりそうだ。1997年に刊行されたこの作品以来、ホーギーもルルも休み続けている。
もう、彼らの周りでは厄介ごとは起きないのかも知れない。