感想

ボトムズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ボトムズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

読了

80歳を過ぎた今、70年前の夏の出来事を思い出す−
11歳のぼくは暗い森に迷い込んだ。そこで出会ったのは伝説の怪物"ゴート・マン"。必死に逃げて河岸に辿りついたけれど、そこにも悪夢の光景が。体じゅうを切り裂かれた、黒人女性の全裸死体が木にぶらさがっていたんだ。ぼくは親には黙って殺人鬼の正体を調べようとするけど・・・。
恐怖と立ち向かう少年の日々を描き出す、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞受賞作

舞台は黒人差別が日常だった1930年代のアメリカ南部。
KKKクー・クラックス・クラン)が暗躍していた、黒人にとっては暗黒の時代だ。
白人が黒人と話すことが公然のタブーとされ、黒人同士の殺し合いや白人が黒人を殺すことは黙殺されたが、黒人が白人に危害を与えることは絶対に許されない。

そんな時代背景で、黒人娼婦が連続して惨殺される。その後白人女性までもが被害者に。
死体発見者である11歳の少年と地区治安官の父が、黒人への偏見を持たずに捜査をはじめるが、町の一部の暴徒化した白人によって、犯人とは考えられない黒人老人がリンチされて殺されてしまう。
少年は森に住む怪物ゴート・マンが犯人だと、少年の純粋な心で考える。
しかし、少年から大人へと成長していく過程で人間のエゴを目の当たりにする。

テーマが重いと言うよりも、描かれているアメリカの1930年代の時代そのものが重い。
黒人差別が当たり前で、リンチや黒人と接しただけで黒人贔屓だと面と向かっていわれてしまう少年の父。だが、この父親の差別への偏見と少年に肌の色で人間の優劣を決めることなく、同じ人間として接することの教え。その父親を敬いの目で見つめる少年。
そこを常に忘れずに書かれ、少年の心がピュアのままだと言うことが読んでいて救いでもある。

犯人は早い段階で見当はつくと思う。動機は1930年代当時でなければ成立しない物ではなく、現代でも通用する物だ。警察やFBIが追いかけるサイコキラーの犯行へのトリガーとしても十分にありうるのである。時代は変わっても、人間の心の闇に潜む物は何も変わらないというメッセージだと私は受け取った。

この作品はミステリ小説というよりも、そういう時代がアメリカにあったということを忘れずに見つめる事が大切なのだ。
私のノワール小説のとらえ方が少し違うかもしれないが、これもひとつのアメリカンノワール小説なのではないだろうか。