感想

『禿鷹城(ガイエルスブルク)』の惨劇 (新潮文庫)

『禿鷹城(ガイエルスブルク)』の惨劇 (新潮文庫)

西ドイツ・デュッセルドルフの日本商社の支店長が密室で殺され、金庫から二百万ドルが消失していた・・・。
折しも、ウィーン郊外のドナウ川を見下ろす古城を改造したホテル『禿鷹城(ガイエルスブルグ)』では、日本政界の黒幕を囲んで日本商社重役たちの秘密会議が開かれていた。大口径鋼管輸出の受注をめぐり必死の策謀をくりひろげる彼らを襲ったのは、デュッセルドルフに続く連続密室殺人だった・・・

高柳芳夫のデビュー作。江戸川乱歩賞を逃した、ばりばりの本格モノである。
高柳芳夫のこの作品にこめた、意気込みがひしひしと伝わってくる。


昭和30年代を舞台にしているので、社会情勢に若干の違和感を感じるものの、現代と変わらない、企業と政治家の裏のつながりや、役員と平社員の上下の関係。また、登場人物もしっかりと書かれていて、入り込みやすい作品である。
わざわざ、ドイツを舞台にしなくてもと思ったりもするのだが・・・。


「読者に脳味噌をトコトン絞らせるような独創的なトリックを案出し、・・・」と、あとがきに書かれているように、作者渾身の密室トリックが用意されている。気合が入りすぎて、凝り過ぎな感も否めなかったが。
トリックに力を注いでしまったせいか、謎解きのタイミングに拍子抜けしてしまった。あまりにも突飛に「謎はすべて解けて」しまうのだ。エピローグに一波乱あるのだが、終わり方がなんともやりきれない。「黒を白に変えてでも、保身する」権力者のずるがしこさ、悪質さがうまく書かれている。上にも昇れず、権力者の陰謀に嵌って、墜落していく平民の悲しさがエピローグには書かれている。
40年前も今も、世知辛い世の中である。