感想

サフォーク州の人里離れた海岸に位置する聖アンセルムズ神学校の学生が、近くの砂浜で砂の下に埋もれた変死体となって発見された。公式見解は事故死とされたが、納得しない学生の義父が、ロンドン警視庁に再捜査の圧力をかけてきた。少年時代に同校で夏期休暇を過ごした経験をもつダルグリッシュ警視長に白羽の矢が立ち、彼は校内に滞在して調査にあたることになる。
時を同じくして、同校の閉校を推進する教会幹部も到着するが、ダルグリッシュはそこに不穏な空気を感じた。
はたせるかな、嵐が荒れ狂う夜、彼の目と鼻の先で惨忍な殺人事件が!

今回の舞台は神学校。日本では馴染みのない舞台設定なので、取り付くには覚悟がいるかもしれない。舞台にかかわらず、ジェイムズを読むには覚悟がいるのだが・・・。
さておき、ジェイムズの作品にはいつも隠されたテーマがあると、私は感じている。それを感じながら読むのが、ジェイムズの楽しみ方のひとつでもある。
今回のテーマは、「過去」。
ダルグリッシュの父は司祭だったこともあり、神学校を舞台にするにはうってつけだったのかもしれない。ダルグリッシュの少年時代に聖アンセルムズ神学校で起こったある出来事の回顧などもあり、知られざる一面を覗かせる。
ダルグリッシュだけではなく、事件にかかわる神父や学生、それに神学校に寄宿している人々の過去も描かれ、その過去から生まれた現在の心情の苦悩が手にとるように伝わってくるのである。
懺悔すべき心は、神に仕える神父であっても持ち合わせているのである。


前作まで活躍の目立っていたケイト・ミスキン警部は、この作品では完全な脇役に回されてしまっている。残念ではあるが、ダルグリッシュが正面切っての主役を張るのが久しぶりなので、良しとすべきなのかもしれない。
それでも、彼女の精神的強さや、警官としての成長はしっかりと書かれているので、次回作に期待がもてる。
次回作への期待と言う部分では、ケイトがダルグリッシュに抱いている恋心でも一波乱ありそうな予感をさせる、終わりかたになっている。


次回作は「殺人展覧会」。さて、テーマには何が取り上げられているのだろう。